日本企業はなぜベトナムの介護市場への参入に慎重なのか

ベトナムでは急速な高齢化を背景に、高齢者介護サービスへの需要が年々高まっています。2025年の統計総局のデータでも、高齢人口の増加が続いていることが示されており、介護サービス市場は今後さらに拡大すると見込まれています。一方で、介護サービスの供給体制や専門人材の育成は依然として十分とは言えず、日本企業にとっては大きな事業機会が存在しています。

ベトナムの介護業界への投資における最大の障壁

日本は世界でも有数の高齢社会を経験し、介護制度や人材育成、サービス運営において豊富なノウハウを蓄積してきました。そのため、日本企業がベトナム市場へ参入することへの期待は大きいものの、実際には慎重な姿勢を取る企業が少なくありません。その背景には、市場規模だけでは測れない構造的な課題があります。

第一に挙げられるのが、介護サービスに対する社会的な認識です。ベトナムでは現在も、親の介護は家族が担うべきものという考え方が根強く残っています。高齢者施設を利用することに対して、「家族としての責任を果たしていない」と受け止められるケースもあり、潜在需要があるにもかかわらず、市場として十分に顕在化していません。そのため、事業者にはサービス提供だけでなく、介護サービスへの理解を深めるための啓発活動にも継続的に取り組むことが求められます。

第二に、介護インフラの整備が十分ではありません。日本と比較すると、高品質な介護施設は依然として少なく、その多くがハノイやホーチミン市などの大都市に集中しています。Phuong Dong AsahiやHoa Sen Nhat Banといった先進的な施設はあるものの、まだ例外的な存在です。多くの施設では設備や運営体制、人材育成の面で改善の余地があり、日本企業が参入する場合には、施設や運営体制を一から整備しなければならないケースも少なくありません。その結果、初期投資や事業立ち上げまでの期間が長期化し、投資リスクも相対的に高くなっています。

制度面も無視できない課題です。Nipro Vietnamの畠山幸副社長は、ベトナムでは事業許認可や土地関連手続きに多くの時間を要すると指摘しています。実際、投資登録証明書や土地使用権の取得までに1年以上を要した事例もあり、こうした行政手続きの長期化は事業計画や投資判断に少なからず影響を及ぼしています。

もっとも、長期的な視点で見れば、ベトナムの介護市場は依然として高い成長可能性を持っています。高齢化の進展に加え、専門的な介護サービスへのニーズは今後さらに拡大すると予想されます。また、日本と比べて人件費や運営コストを抑えやすいことも、日本企業にとって大きな魅力となっています。

ベトナムにおける介護業界の成長可能性

こうした市場で成功するためには、単に日本の介護モデルを持ち込むだけでは十分ではありません。現地の教育機関と連携した介護人材の育成、日本式の研修制度の導入、介護DXの活用による業務効率化、そしてベトナムの文化や生活習慣に合わせたサービス設計が重要になります。現地ニーズを踏まえた段階的な事業展開を進めることで、リスクを抑えながら持続的な成長を実現できる可能性があります。

ベトナム市場への参入を阻んでいる最大の課題は、市場規模の不足ではありません。人材育成や制度対応、事業運営を一体的に構築できるかどうかにあります。これらの課題を乗り越えられる企業にとって、ベトナムは有望な成長市場となるだけでなく、将来的にはアジアにおける介護事業の重要な拠点となる可能性も秘めています。

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