ベトナム企業におけるデジタルトランスフォーメーションの現状

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、もはやベトナム企業にとって特別な概念ではありません。大企業から中小企業まで、また製造業からサービス業まで、多くの企業がDXを経営戦略の重要課題として位置付けています。一方で、DXへの関心が高まる一方、「DXは本当に企業価値の向上につながっているのか」という根本的な問いも投げかけられています。

実際、DXは企業経営において避けて通れないテーマとなっています。情報通信省によれば、運営コストの上昇や市場競争の激化、さらには消費者ニーズの急速な変化を背景に、ベトナム企業の90%以上がDXの重要性を認識しています。企業は業務プロセスの効率化やコスト削減に加え、経営管理の高度化や新たなビジネスモデルの創出にも大きな期待を寄せています。

ベトナム企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の現状

政府もDXを国家戦略として位置付けています。決定749/QĐ-TTgに基づく「2025年に向けた国家デジタルトランスフォーメーションプログラム(2030年を展望)」では、「デジタル政府」「デジタル経済」「デジタル社会」の三つを柱として掲げ、行政・企業・社会全体のデジタル化を推進しています。この取り組みは、経済成長と国際競争力の向上を支える重要な政策として期待されています。

国際的な評価においても、ベトナムは着実に存在感を高めています。2024年の国連電子政府発展指数(EGDI)では前回から15順位上昇し、193か国中71位となりました。また、WIPOのグローバル・イノベーション指数では133か国中44位、ITUのグローバル・サイバーセキュリティ指数では194か国中17位となるなど、デジタル基盤や技術力の向上が国際的にも評価されています。

通信インフラの整備も順調に進んでいます。2024年末時点で光ファイバー回線の普及率は世帯ベースで82.4%を超え、政府が掲げていた2025年目標をすでに達成しました。さらに、ViettelやVNPTなどによる5Gサービスの本格展開が進み、AI、IoT、ビッグデータなど先端技術の活用を支える基盤が整いつつあります。2G通信サービスの終了も、より高度なデジタルインフラへの転換を加速させる政策の一環と言えるでしょう。

行政分野でもDXは着実に進展しています。国家住民データベースは各省庁や地方自治体とのデータ連携を実現し、膨大な照会処理に対応しています。また、電子本人確認アプリ「VNeID」の利用も急速に拡大し、行政手続きだけでなく金融や医療など幅広い分野で活用されています。オンライン行政サービスの完全電子化も進み、2025年の目標達成に向けて順調に整備が進められています。

民間企業では、ERPやCRM、電子商取引、キャッシュレス決済などのデジタルプラットフォームの導入が急速に進んでいます。e-Conomy SEA 2024によると、ベトナムのデジタル経済規模は約300億米ドルに達し、東南アジアでも有数の成長市場となっています。また、スマートフォン利用率は87%を超え、高速インターネットの普及と相まって、デジタル経済の拡大を支える重要な基盤となっています。

ベトナムにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の課題

一方で、多くの企業はいまだDXの本質的な課題を克服できていません。その代表例が、「デジタル化」と「デジタルトランスフォーメーション」を混同しているケースです。会計ソフトや業務管理システムを導入するだけでDXを実現したと考える企業も少なくありません。しかし、本来のDXとは、データを活用して業務プロセスや組織、さらにはビジネスモデルそのものを変革する取り組みを指します。VCCIの調査でも、半数を超える企業がDXの本質を十分に理解していないことが明らかになっています。

また、明確な戦略やロードマップを持たないままDXを進める企業も少なくありません。システム投資が部門ごとに個別最適化され、データが分断されているため、全社的な改革につながらないケースが多く見られます。USAIDとVCCIの調査では、DX戦略を策定し、推進責任者を配置するとともに、成果を評価する仕組みを整備している企業は全体の30〜35%にとどまっています。

人材の問題も見過ごせません。DXは単なるIT導入ではなく、企業文化や働き方そのものを変革する取り組みです。しかし、デジタル人材の不足や変化への抵抗感に加え、経営層が十分にコミットしていないことから、多くのプロジェクトが期待した成果を上げられていません。マッキンゼーの調査でも、世界のDXプロジェクトの約70%が人材や組織に起因する課題によって十分な成果を得られていないと報告されています。

さらに、データ活用能力の不足も大きな課題です。統合されたデータ基盤が整備されていないことに加え、経験や勘に依存した意思決定が依然として根強く残っています。その結果、多額の投資を行っても、DXが期待した経営効果につながらない企業も少なくありません。

ベトナム企業のDXは現在、大きな転換点を迎えています。単にシステムを導入するだけでは、競争力の向上には結び付きません。一方、経営戦略と一体となったDXを推進できれば、生産性向上や新たな価値創出を実現する強力な成長エンジンとなるでしょう。今後、競争優位を築く企業は、DXへの投資額の多寡ではなく、その本質を正しく理解し、全社的な変革へと結び付けられる企業であると言えます。

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